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ssh1051 広がるほど、閉じていく [リテラシー・思考力]

<ssh608再録>

 ネットというのは世界中に開かれたすごく広い世界です。
 ではあるのですけれど、そのネットの中で自分がアクセスする場所というのは至極限られています。

 ネットだと、自分にとって興味の無い、気に入らない情報は最初から無視しています。
 この点では、TVの方がまだ偶然の出会いが多いと思います。
 TVもリモコンでチャンネルを切り替えてしまえばそれっきりですけど、それでもコマーシャルとか次週予告とか、「自分が見ようと思って見ている情報」以外の情報がわりと入ってきます。
 ネットからは、そういう「自分が見ようと思って見ている情報」以外の情報は、あまり入ってきません。アイコンをクリックしない限り、何も見えてこない。しかも人間なんてズボラなもんで、せっかくリンクが張ってあっても、リンク先をクリックして見る人はすごく少ない。

 ネットってのは、開かれているが故に、ものすごく狭い世界です。
 ものごとに対する視野が狭いことを視野狭窄(しやきょうさく)と言いますが、ネット界には視野狭窄のサンプルがいっぱいあります。


 長山靖雄『若者はなぜ決められないか』に、このネットの閉鎖性に関する記述があります。
 ネットを始めて、様々な人とつながることができることに最初は感激した。しかし気がつくと、自分と同じような志向や同じような趣味を持つ人間のサイトばかり見るようになっていた。自分が閉鎖的になっていくことに気付いて、彼はネットと距離を置くようにしたと。


 趣味志向がちょっとマイナーな人間は、リアルワールドではなかなか同好の士に会えません。
 かつて私はプロ野球近鉄バファローズのファンでした。で、友人や親類とこの話題が出る度に「なぜ近鉄?」と問われ、いちいちそれに答えなければならなかった。この面倒臭さは巨人ファンには想像もつかないでしょう。
 いちいち答えなければならなかったおかげで、私は自分の趣味志向を、イヤでも対象化せざるを得ませんでした。対象化して、言葉で説明しなくてはならなかった。

 しかしこれは実は、つながりにくい相手とつながる訓練になっていたのです。
 長山もそういうことを述べています。簡単に共感・同意できる相手とばかりつながっていると、やっぱ精神がなまっていくんですね。なまるだけならともかく、そーゆー関係はあんまり楽しくない。最初は面白いけど、すぐに飽きる。
 Easy come, easy go.ですね。簡単にわかりあえる相手とのコミュニケーションって、飽きるんですよ。
 飽きるから、似たもの同士のちょっとした差違が気になり始める。
 で、同族憎悪といいますか、内ゲバといいますか、似たような物同士なのにつまらんケンカを始めるのですね。

 これはネットに限りません。
 TVだって新聞だって、手に入る情報量はべらぼうです。全部なんか消化しきれません。食いきれないほどのものを並べられたら、誰だって自分の好きなものだけを食べます。好きなタレントの出る番組だけを見るとか、ドキュメンタリーは外すとか。かく言う私だって、新聞の経済面はほとんど見てません。
 コミュニケーションの世界だけじゃありません。
 買い物だって、あんまり選択肢が多いと「一番売れてるのはどれですか?」とか「私も同じのを」とか「セールスマンの方に勧められたので」とかなっちゃう。


 自分のまわりの世界が広がれば広がるほど、自分が接する世界が閉じてしまうことは往々にしてあるんです。

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ssh1047 ホンネを正直に認めることと、そこに甘んじないこと [リテラシー・思考力]

<ssh469再掲>

 今回のテーマは「ホンネを正直に認めることと、そこに甘んじないこと。」
 これはすこし挑発的に言い換えると、
 タテマエとホンネは両方とも大事にせよ ということです。
 もっと言えば、
 首尾一貫するな、矛盾を甘受せよ ということ。

 ずいぶんとヘンテコなお話です。
 だって、一貫性のない主張は説得力がないと、sshでは常々言ってきたのですから。
 
 shiraも加齢で丸くなっちまったのでしょうか?
 いえいえ、とんでもない。
 タテマエとホンネを両立し、その矛盾を丸ごと甘受することで、初めて一貫した説得力のある意見は述べられるのですよ。


 1980年代というかなり古いネタですが、NHKで「暴力教師」という6回連続のドラマがありました。
 時任三郎演ずる熱意あふれる中学教師が、クラスのある男子生徒と階段の踊り場でもみ合いのようになり、生徒が階段から転げ落ちて大きなケガをする、というのがドラマの発端です。斉藤由貴演ずる雑誌記者の取材で教師が口にした一言が問題を大きくします。「体罰はやむを得ないものなんだ。」
 ストーリーはいじめの二重構造や親子関係のこじれも絡んであまり素直じゃない展開をします。で、当初はひどく悪意に満ちた記事を書いた記者が、第2回だか第3回だかで、こんなセリフを言います。

 「私、教師が嫌いなんです。」

 ドラマはここから、複雑に絡んだあれこれが少しずつ解きほぐされていくのですが、その中で斉藤由貴演ずる女性記者が状況を改善する方向に働きかけるようになっていきます。最初は叩いてやろうと悪意ムキだしで接していた教師たちに、彼女は徐々に理解を示すようになっていく。こじれた状況を収束するのに非常に大きな役割を彼女は演じます。

 で、そのスタンスの転換を象徴するのが、前述の「私、教師が嫌いなんです。」というセリフです。

 合理的に考えると、これは妙な話です。
 でも、私にはこのセリフがすごく納得できました。
 その時、彼女はタテマエの正義や大義で覆い隠して来た自分のホンネを吐き出したからです。
 自分のホンネを吐き出したから、他者との共感が生まれた。タテマエだけで他者とつながることは不可能です。

 他者とつながるには、共感が必要です。
 共感には、ホンネを認めることが不可欠です。

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ssh1044 面と向かうと、人は言葉を選ぶ [リテラシー・思考力]

<ssh216再録 初出2007年>
 帝京大学の浦野東洋一教授(東京大学名誉教授でもあります)の講演を聞く機会がありました。(注:2016年3月退官)

 と言っても、ここで書くのは、その講演の中のしごく些細な部分についてです。

 浦野教授の研究テーマは学校運営教育行政ということで、日本中あちこちの学校で行われている様々な学校運営の取り組みを追跡調査しています。(学校運営です。校長権限による「学校経営」じゃありません。)
 で、氏が特に注目しているのが、長野県の辰野高校。ここには「三者協議会」なるものがあります。
 
 三者とは、生徒と保護者と職員。
 年数回定期的に開催されるこの協議会は、現在では地域の人たちや遠方からの傍聴者も多いようです。
 協議会では、生徒から授業改善の要求が出たり、職員から生徒の生活面への注文が出たりと、各々の立場からいろいろな議題が出されます。
 協議会はそれを協議します。ただし議決権はありません。
 重要な案件については、それぞれが持ち帰って、生徒会&職員会&PTAの会議で議論されます。

 
 実は私が面白えなあと思ったのは、この協議会に至る前のいわば失敗例の方でして。

 当初は生徒の参加は予定されていなかったんだそうです。
 最初にやったのは、地域の方々と職員との意見交換会。
 ま、さして珍しくもない企画ですが、これが、大失敗だったんだそうです。
 「おたくの生徒が○○をして困る」というような、クレームの集中砲火で終わっちゃったんだそうで。

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ssh1042 痛い目に遭わないとわからない、としても [リテラシー・思考力]

<ssh189再録 初出2008年>

 今や大ベストセラー作家となった藤原正彦氏が、以前新聞にごく短いコラムを書いていました。
 その中で気に入ったものを1つスクラップしてあります。もう何度か高校生にも読ませたコラムです。

 テーマは、
 「他人に迷惑をかけてはいけない」とよく言われるが、では「他人に迷惑でなければ何をしても良い」のか
 藤原氏はこれを、道徳論や心の問題としてでなく、純粋に論理的に(言い換えると数学的に)その答えはNOであるとしています。

 と言っても、短いコラムですから、話はしごく簡単。
 「AはBである」からと言って、「BはAである」とはならない。
 数学的に言うと、「AはBである」という命題が真であっても、「BはAである」という命題が真とは限らない。逆は必ずしも真ならず、というヤツです。
 「アメリカ大統領はブッシュ氏だ」は真、「ブッシュ氏はアメリカ大統領だ」も真。これは逆もまた真なりの例。
 しかし、「雪は白い」は真だが、「白いものは雪だ」は真ではない。白いものは雪以外にもいっぱいあります。
 「出来の悪い学生の答案も白い」とは藤原氏の文面。


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ssh1018 能動情報と受動情報 [リテラシー・思考力]

<ssh214再編>

 いきなり結論から書いてみます。

 こちらから動かなくても向こうからどんどんやってくるような情報に、ロクなものはない。

 今回は、こういうテーマのお話です。

 この世の中に、ネットやテレビやラジオはもちろん、新聞も本もなかったころ、人は自分の身の回りのことだけを知っていれば良かったはずです。自分の家族や部族のこと、その周辺の地域の地形や自然のこと、生きていくために必要な仕事のハウツーなど。
 ただし、それは知っていないと絶対に生きていけないものでもあったでしょう。必要なのは少量の情報だが、それは必要不可欠な、何としてもモノにしなければならない内容だった。その情報の伝達は、直接のコミュニケーションでしか行えなかった。

 状況を劇的に変えたのは、恐らく大量印刷技術。印刷物を素早く大量に生産することによって、一つの情報を大量の人間にバラまくことができるようになった。
 さらに鉄道や海運の発達は印刷物を遠方に運ぶことを可能にします。
 その後も、より多くの、より様々な情報を大量に送れるように、人は技術を進歩させました。巨大コミュニケーション、つまりマスコミュニケーションへの道です。
 ラジオとテレビの登場で、マスコミュニケーションは飛躍的に発展します。
 そして現代のネット。
 大量の情報を大量の人に伝える媒体=マスメディアの伝達能力は、ものすげえことになっています。

 おかげで、現代人は情報の洪水に投げ出される運命にあります。

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ssh1012 受験勉強はネタ知識の宝庫 [リテラシー・思考力]

<ssh40再掲 加筆訂正あり>

①社会主義というのはバスのようなもので、そのバスに乗れればその国は社会主義へ移行する。しかし、バスに乗り遅れると、もはや社会主義へ移行することはなく、資本主義のまま発達する道を選ぶことになる。

大学で学ぶ上で一番大切なものは、努力でも才能でもない。それは好奇心=知的好奇心だ。「なぜそうなるのだろう」といった好奇心こそが学術的研究の原動力となる。

③遺伝子が生物の身体や行動を作るということはすでに解明されているが、最近の研究によると、その正反対の作用もあるかもしれないという仮説が出て来た。後天的な経験から得られた身体的な特性や行動が遺伝子に影響を与え、遺伝子を変化させるというのである。

④私が若い頃に長期の一人旅をしたころは、家族との連絡は手紙によってしかできず、手紙は書くのも手間なら届くまで何週間もかかった。今は電子メールで簡単に連絡が取れる。私の友人は、メールのおかげで今まで話しにくかったこともやり取りできるようになった、メールでなければこれほど親と打ち解けることはなかったのではないかと言っている。

 何の脈絡もない話ばかりですみません。
 以上は大学入試英語長文問題で実際に出題された内容です。中学生なら(仮に帰国子女で英語ペラペラだとしても)まず絶対に理解できっこない内容ですわね。

 小論文を書くには一般教養や知識やいい視点観点が必要だと言われます。
 私はそういうのを「ネタ知識」と呼んでいます。
 実は、大学入試の勉強は、そういうネタ知識を仕入れるのにとても便利なものです。

 別に英語に限りません。現代文、古典、地理歴史公民、理科、家庭科、体育、LHR、小論文の課題文・・・。みなさんが学校なんかで勉強させられていることには、実はネタ知識になるものがいーっぱいあります。

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ssh1008 あぶない!思考停止の言葉 [リテラシー・思考力]

<ssh29再録>

 考えるとは、問い続けること。

 問い続けるということは、なかなか答えが出て来ないということでもあります。一つの問いに対して一つの答えが出たからと言って、そこであっさりやめるわけにはいかない。本当に納得のいく、読み手に「ほう、なるほど!」と膝を打たせるような答えを見つけるまで、問い立てと答え探しを続けなければならない。実にしんどいことです。

 ところで、TVや新聞などのマスメディアの場合、数々の社会問題を扱い、それに対してなにがしかのコメントを出さねばならなりません。ひとつひとつの問題に小論文のように深く問いを立て答えを探していたのでは、7時のニュースは24時間番組になってしまいますし、新聞は電話帳並みの分量になっちゃいます。
 だから、TVや新聞では、仕方なく、こんなコメントで片付けて次に行くしかありません。
 「一刻も早い解決が求められます。」
 「常識として考えられない犯罪と言えます。」
 「国民に納得のゆく説明が必要と言えます。」
 「いずれにしても、このような行為が許されるはずはありません。」

 私たちは、TVや新聞はエライものだと思っています。入社試験も難しいし、言ってること書いてることもよくわからないことが多い。
 しかししかし。上記のようなコメントは、しょせん時間制限や字数制限の中で、話題を切り替えるための強引なまとめに過ぎません。
 こういう言葉は、小論文では絶対に使ってはなりません。ええ、絶対です。

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ssh1007 裏返してみる [リテラシー・思考力]

(ssh251再録)

 頭脳明晰な男性(容姿イマイチ)に容姿端麗の女性(脳ミソイマイチ)が言い寄ります。
 「あなたの知能と私の容貌を兼ね備えた子どもが生まれたら、どんなに素敵だと思いませんか?」
 男性は、こう応えます。
 「私の容貌とあなたの知能を兼ね備えた子どもが生まれたら、どんなに悲劇的だと思いませんか?」

 このやりとりをアインシュタインのものと紹介する人がいるんですが、元ネタはジョージ・バーナード・ショーです。ショーはアイルランド出身の評論家&劇作家で、1925年ノーベル文学賞受賞。ともあれ、かなり有名な話です。

 さて、考える力を鍛えるための今回のテーマは<裏返してみる>

 ものごとには、たいてい両面があります。
 メリットは、デメリットでもある。
 いいときがあれば、悪いときもある。
 甲の薬は乙の毒、人間万事塞翁が馬。
 と書くとずいぶん乱暴ですが(上の2つのことわざはかなり意味が違いますから)、
 でも、頭の回路としては同じようなもんだと私は思います。

 乱暴ついでに乱暴にまとめると、こういう頭の回路です。
 <ものごとを見たら、裏返して考える>

 いいと思ったものは、その欠点弱点を考える。
 悪いと思ったものは、その利点美点を考える。
 多いと思ったら、いや実は少ないのではないかと考える。
 珍しいと思ったら、いや実は珍しくなのではないかと考える。

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ssh1006 あえて正反対の立場を取る [リテラシー・思考力]

 引き続き、2006年初出の記事の再編です。

 2006年、北朝鮮が核実験を行いました。
 その時、私はこんな問をあえて立ててみることを示しました。

 「北朝鮮の核実験に賛成できる理由を考えなさい」

 別に北朝鮮を応援しろって言ったんじゃありません。
 これは思考力とリテラシーのトレーニングとして有効な問と考えたのです。

 どこの国がやるにしても、核実験に積極的に賛成する人はまずいません。そういうことはないほうが普通はいい。
 だから、この「問い」に答えるためには、一時的に自分の意見と正反対の立場に立つ必要があるはずです。この問を立てたのはそういう理由です。

 ものごとを考える時には、多面的にものを見る必要があります。一面的な見方では、相手の本当の姿はよくわかりません。できるだけ多面的に、最低でも裏と表の2面からものを見なければいけません。
 なぜ一面的だといけないのか?それは、一面的な見方だと、どうしても大した答えは見つからないからです。

 例えば、
 核実験はけしからん→強く制裁せよ→おしまい
 いじめはけしからん→いじめた生徒と保護者を厳しく指導せよ→おしまい

 これでは、原稿用紙が90%くらい余ってしまいます。TVのコメンテーターならこれでも商売になるでしょうが、受験生がこれじゃアウトです。

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ssh1005 極端なことを問いかける [リテラシー・思考力]

 2006年初出の記事の再編です。

■■
 今回も、思考力を鍛えるための有効な問いかけについて紹介します。

 問いかけのヒントとしては、「極端な」問いというのがあります。

 極端というのは、「ミもフタもない」「それを言っちゃあおしまいよ」「何もそこまで言わんでも」というような問いです。よく言う「究極の選択」もこれでしょう。
 他人にぶつければケンカの元になりかねませんが、自分に対してなら誰にも怒られません。

 たとえば、

・お金の儲かる仕事がしたい
 ←お金さえ儲かればいいの?
  高収入でやたらと忙しいのはOK?
  お金が儲かれば友達も恋人もいらない?
  結婚はしなくてもいい?
  稼いだお金を使う暇がなくてもいい?
  お金はたくさん入るけど他人から嫌われるようなのでも構わないの?
  
・どうしても○○大学に行きたい
 ←○○大学に行ければ他のものはなくてもいいの?
  ××大学からまあまあの仕事につくのと、○○大学を出てプータローになるのとどっちがいい?
  4浪でも◯◯大学?
  
・お金持ちの男と結婚したい
 ←お金持ちなら年寄でもOK?
  年収600万の20代と1500万の50代でも後者?
  お金持ちなら、海外でも辺地でも、友達が誰も遊びに来れないような場所に住むことになってもOK?
  金持ちならいくら浮気してくれても構わない?

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